講義のねらい

認知の機序とその障害について

  • 「知の科学」としての認知⼼理学の基礎概念を理解し,他⼈に説明できる。
  • ⼼を「情報を処理するシステム」として理解する視点を獲得する。
  • 認知における様々な障害の機序についての基礎的な知識を獲得し,説明できるようになる。

概要

⽇常⽣活において,我々はさまざまな物を⾒聞きし,それが何かを理解し,次に取るべき⾏動を決めるという作業をごく⾃然に⾏っている。例えば,道を歩いていて前から⼈が来たという状況を考えてみよう。もし,前から来たのが仲の良い友達であれば⽴ち⽌まって話をするだろうし,苦⼿な⼈であれば気づかれないうちに視界から離れようとするだろう。この時,前から来た⼈は誰か,その⼈は⾃分にとって友好的,あるいは害をもたらす存在か,その⼈に対して⾃分はどのような感情をいだくか,その⼈に接近すべきか・逃げ出すべきかといった問題は,特に意識しなくとも我々の⼼内でほぼ⾃動的に処理される。

このように,⾏動が⽣起するまでの間には,接近する⼈・動物・モノの外⾒的特徴と現在の状況の認識,記憶からの関連した情報の検索,起こりうる問題とそれに対する対応策の検討,選択された⾏動の実⾏などの多くの情報処理が⾏われている。このような情報処理は,意識的に⾏われるものもあるが,多くは無意識のうちに⾏われており,⽇常⽣活でそれらを⾃覚することは稀である。認知⼼理学は,実験・調査などの観察的⼿法,コンピューターによるシミュレーションと実際の⾏動の⽐較,近年めざましい発展を遂げている脳科学的⼿法を駆使して,これらの⼼内情報処理過程を明らかにしようとする学問である。特に近年の⼼理学では,さまざまな⼼理現象に,顕在的処理過程および潜在的処理過程の2種類が関わっていることが明らかにされている。

本講義では,認知⼼理学の基本的な知識を獲得し,⼼内情報処理の仕組みと特徴を理解することを⽬的とし,認知⼼理学を理解する上で極めて重要なキーワードに沿って,さまざまな⼼理過程の特徴について説明を⾏う。特に,近年の⼼理学のさまざまな領域で指摘されている2つの対称的な処理系の諸概念を整理することを通じて,⼼のメカニズムの基本を理解するための視座を獲得する。その際には,これまでの研究からわかった事実を羅列するだけでなく,実際に⾏われたさまざまな実証的研究を紹介し,時には,その実証研究を追体験できるようなデモンストレーション実験を⾏う。それらの活動に参加しながら学ぶことによって,認知⼼理学における研究⼿法と成果としての知⾒を有機的に結びつけながら理解することを⽬指す。